Saturday, January 29, 2011

産科病棟での一日

L&D(Labor & Delivery) "産科病棟"の一週間が始まりました。

医学生は毎朝、5時に出勤。
出産を終えた妊婦さんの体調をチェックし、状況と今後のプランを電子カルテに記入します。
忙しいと20人ぐらいの産後の妊婦さんが病棟にいますが、医学生一人につき4~5人ぐらいの妊婦さんを担当するのが平均的なようです。8時ごろに回診が始まるので、それまでに妊婦さんを診てカルテを書き終えなくてはなりません。

Nurse Stationにて。手前に座ってカルテ書いているのが医学生のT君

でも産科は内科に比べて、問診する事項もきまっているし、カルテも簡素にできる感じです。
みんな7時前には余裕で仕事を終えるようです。

さて、電子カルテに書いた事項は指導医またはレジデントに "Co-sign"といってチェックをされないと正式なカルテとみなされません。ふつうは学生が書いたカルテの下に、指導医が足りないところを付け足したり、間違いを訂正したりします。そして基本的に「上のカルテ内容に同意する」といったことを書いてくれます。

さて、8時からは回診が始まります。
産科病棟にいる全ての患者さんについての報告会です。
患者さんの状況と今後のプランを口頭で話していくのですが、指導員のインプットがここで入ります。また指導員が症例に即した質問事項をしたり、知識を「教授」してくれるのもこの回診のです。レジデントに混じって医学生も、自分が朝診てカルテを書いた患者さんの報告を口頭で行います。

回診が終わると、お産に立ち会う機会があります。
まずは病棟にいる妊婦さんのリストで、出産が近い人を医学生同士で「分け合って」担当をきめます。そして担当になった妊婦さんの部屋にいき、挨拶をします。
基本的に担当でない妊婦さんの部屋には、プライバシーを尊重して全く入らないようにと言われます。

帝王切開では医師と一緒にオペ室に入ります。
普通アテンディングとレジデントの2人がかかわりますが、実際の帝王切開をするのはレジデントです。アテンディングはSupervisorとして指導を行います。
医学生はアテンディングのすぐ横に立たされます。
手術の様子はこれでばっちり見れます。それからクランプを渡され、術野が見えるように皮膚と脂肪をクランプで抑えておくのが私らの仕事です。それから縫合の際には、ハサミを渡され、支持にしたがって糸をきったりします。

経膣分娩はふつうレジデントの1-2年が担当します。
赤ちゃんが出る間際になると、アテンディングや小児科のチームが到着します。
医学生がどれだけ出産に加担できるかは、担当のレジデントによりきりです。
妊婦さんの足を押さえさせてくれるだけのレジデントもいれば、赤ちゃんを取り出すのをバッチリ体験させてくれるレジデントもいます。


私はラッキーなほうで、赤ちゃんの頭がでてきたときの鼻口の吸引、肩のDeliveryも体験させてもらえました。生まれたてホヤホヤの赤ちゃんを、持ち上げさせてもらうのは、本当に光栄な体験でした。あとはへその緒からの採血、胎盤のDeliveryもやらせてもらいました。

産科病棟は、しばらく暇だったり、急に忙しくなったりと予測ができません。
出産がない場合は、トリアージといって入院させるかどうか患者さんを診て評価するのも医学生の仕事です。トリアージでは基本的に詳しい問診を行い、触診までします。またマネジメントプランを考えます。その後レジデントのところに行って、症例報告を口頭で行います。その後はH&Pといわれる詳しいカルテを記入するまで医学生の仕事です。

トリアージに診る患者さんがいない場合は、朝にみた患者さんのチェックや、マグネシウムを投与されている患者さんのチェックを毎2-4時間に行い、カルテ記入をします。それでも仕事がない場合は基本的に病棟でスタンバイなので、クラスメートとくっちゃべったり、自習をしたりして時間をつぶします。
            産科病棟の廊下。突き当たりが手術室です。

Thursday, January 20, 2011

毎週木曜日は講義日

毎週木曜日は「講義の日」で、ほぼ一日中学校です。
今日は朝8時から学生によるプレゼンテーション、そして2つのレクチャー。
さらにお昼をはさんでレクチャーをひとつ受講し、ビデオを2本みました。

ロテーションによってはプレゼンテーションをしたり、レポートを書いたり、SOAPノートを提出したりと様々ですが、産婦人科ロテでは10分プレゼンテーションが必修課題のひとつになっています。

実習の場で実際にみた症例を一つとりあげ、簡単な症例プレゼンと、症例に即した解説を加えるのが基本的なフォーマットです。発表時間の制限が10分なので、テーマをかなり絞らないといけません。

私はMFMクリニックで多くの妊娠糖尿病の患者さんをみましたし、妊娠糖尿病のクラスにも参加させていただいたので、「妊娠糖尿病の食事療法」という題でパワーポイントのプレゼンテーションをつくりました。

できあがったのはこんなプレゼンテーション


はじめに症例を、フォーマルなプレゼンテーションの形で紹介し、糖尿病の妊婦さんがどのよう
食事療法をしなくてはいけないか、紹介しました。

プレゼンテーションはきちんと10分で収まり、一安心。

一番うけたスライドは、最後の日本の「妊婦さんタッグ」。
「これをつけていると妊婦さんと分かるので、電車で席を譲ってもらえたりして人に優しくしてもらえます」といったら、指導医の先生(男性です)が「産婦人科医ももらえるの?」とジョーク。クラスのみんなから笑いがこぼれました。

ちなみに今日の講義の内容は

"Minimaly Invasive Surgery"
"Abnormal Puberty"
"Physiology in Pregnancy"

最後にみたビデオは

"Nausea & Vomiting"
"Breast Cancer"

でした。

Monday, January 17, 2011

糖尿病の妊婦さんクラス

今日1月17日はマーチン・ルーサー・キング牧師の誕生日ということで、祝日。
研修もクリニックが閉まっているのでお休み。贅沢な三連休をすごしました。

せて、先週の金曜日は糖尿病の妊婦さんが受けるクラスに参加させてもらいました。

妊娠中に糖尿病を発症すると、血糖値があがっておなかの赤ちゃんに過剰な糖分がゆき、巨大な赤ちゃんができてしまう可能性があります。そうすると出産が困難だったり、帝王切開の対象になったりするので、血糖値をコントロールする必要性があるわけです。よって妊娠中に発症した妊娠糖尿病は、ハイリスク妊娠とされます。

今回は妊娠糖尿病と診断された4人の妊婦さん対象に、2時間半にわたって講習会が開かれました。講師はマスターをもつ栄養士さんで、Diabetes educatorの資格ももっておられます。

まずは妊娠糖尿病の基礎的知識から、血糖値をコントロールすることの重要性などについてのお話。

次はどの様に血糖値をコントロールするかの実践的テクニック。
糖尿病の薬を投与する前に、食事療法と運動をすることで血糖値をターゲット値に落ちるようにします。

やはり一番大変そうなのは食事療法です。
カロリーもそうですが、炭水化物の摂取量を毎回確認して食べなくてはいけません。
それから一日三食の他にスナックなどを必ず摂取。
血糖値は一日に4回、自分で針をさして計ります。


最後は一人ひとり、血糖値を計るグルコメーターで血糖値を計っておわりました。
4人のうち3人は、90以下の値で合格範囲。
最後の妊婦さんは、116で、泣き出してしまいました。
彼女はさらにBet rest (安静)を余儀なくされています。だから運動もできません。

講師の栄養士さんは、彼女にしっかりハグを慰めていました。
そしてクラス参加者みんなに、「何か質問や、不安なことがあればいつでも電話してください。毎日電話してきても、私たちはよろこんでお手伝いしますから」とおっしゃっていました。

通常妊娠糖尿病は、出産後には治る糖尿病です。
みなさんフィニッシュラインがあるので、何とか頑張ってほしいものです。

Wednesday, January 12, 2011

産婦人科外来の症例プレゼンテーション

今日は四人の患者さんに一人で問診させてもらう機会がありました。
全て初診の妊婦さん。

メディカルスクールではM1とM2でComplete history taking and physical exam (一連の問診と診察)をみっちり訓練されるのですが、今回は実習場のクリニックで用意されている、質問表を基に問診を進めるので楽チンですし、質問内容に落ちがないので安心感があります。

さて、問診を終えると指導医のところにプレゼンテーションをしにいきます。

症例のプレゼンテーションはどの科でもやるのですが、各科によってスタイルが少し違います。


現在実習しているMFMの外来、初診のプレゼンスタイルはこんな感じ。

1)患者さんの基本情報(名前、年齢、Race、妊娠歴)
2)LMP(最後の生理日)、出産予定日、現在の妊娠週数
3)患者さんが現在と過去にかかったことのある病気の診断名(特に妊娠に影響のあるもの)
4)このクリニックに来た理由
5)その他重要となる情報

それでは今日診た患者さんの一人を例に、ここでプレゼンをしてみましょう。


ケリー・ブラウン(仮名)、29歳。白人と黒人のハーフ。新規の患者さんです。

G1P0。最後の生理日は2010年9月110日。出産予定日は2011年6月17日。

今日で妊娠17週間と5日。

慢性の鉄欠乏性貧血の病歴があるため、ここに来院。

母親も慢性の鉄欠乏性貧血があり、患者を含め3人の子供は全て帝王切開で出産。



という、かんじです。

プレゼンのあと指導員といっしょに、患者さんの診察室へ。
指導医が私の集めた情報で重要な箇所を、確認のため再度患者さんに再度尋ねます。
そして診察(fundal height、超音波検査、PAP、Pelvic exam等)をして終了します。


実はこのプレゼンは、内科病棟で行われるプレゼンに比べるといたって省略された形です。

内科では現在の患者さんの様子やバイタルを含む基本情報と診察の所見から、細かい検査結果のアップデート、さらには治療方針まで(アセスメント及びプラン)、重要と思われる所を全て述べなくてはいけません。

さらに指導医によって「述べるべき事柄」や「物の言い方」が微妙に違うので、それに合わせてプレゼンを行うのが慣れない医学生にとってはなかなか難しいのです。プレゼンの流れもスムーズにしなくてはいけませんが、指導医が気に入らないと途中で「ちょっとまったああ」が掛かり、医学生は「汗」をかかされます。しばしば「恥」もかきます。でもうまくプレゼンができて、指導医からポジティプなコメントをもらうと本当に嬉しいものです。これを繰り返しながら、アメリカの医学生は「臨床プレゼンの仕方」を学んでゆくのです。

すでに内科ロテを経験しているので、今日の産婦人科外来のプレゼンはいたってシンプル。外科もプレゼンが簡素だと聞くのですが、その話題はまた外科ロテが始まるまでのお楽しみにとっておきましょう。

Tuesday, January 11, 2011

End of Life に関する講義

今日はずいぶん具合がよくなったのでMFMクリニックに。

まずはDr.Dに「調子はどう?」と聞かれます。
「ずいぶん良くなりました。昨日は悪寒と、からだのだるさがあったのですが」というと、
「それじゃまだ、完全に治ってないんじゃないの?極力妊婦さんに悪い風邪を染さないようにしないと。今日お休みにするか、研修するかあなたに任せるけど・・・」とちょっとプレッシャー。
一日休んだ昨日の分もとり返したかったので、「妊婦さんに直接手を触れない事と、サニタイザーを頻繁に使用して、研修をする」ことに決めました。

今日の糖尿病の妊婦さんを中心に診ました。36週でかなり赤ちゃんが巨大化している妊婦さんがいて、ポーンと突き出たおなかにちょっとびっくりしてしまいました。


今日の午後は学校で、必修の授業がありました。
そこでMFMクリニックを2時に後にし、雨の中学校に向かいました。

M1とM2では「On Being a Doctor」というタイトルで、必修の倫理のクラスがあります。神経科医でもある教育学部の副学長の先生が講義して下さいます。同じ先生が教えてくださり、M3で必修となっているのが「Life, Death, and Dying」といわれるEnd of Lifeについて考える一連の講義です。M3では学生はみな臨床実習の真っ最中ですが、研修から抜け出して必ず出席するようにと言われています。

今日はホスピスと緩和ケアがご専門の精神科の先生が、精神科からみた「End of Life」ケアのお話をして下さいました。講義内容のほんの一部ですが、私が特に心にのこった箇所をご紹介したいと思います。


人は死を目前にしたとき、様々な感情をもつものです。
不安、恐怖、孤独感、罪悪感、絶望感・・・

講義ではPTSD(心的外傷後ストレス障害)を病んだ退役軍人の方の例を挙げていましたが、人は多かれ少なかれ、とりかえしのつかない自分の人生を振り返るとき「自分の人生はこれでよかったのだろうか」「やり残したことがある」「生きてきたかいがあったのだろうか」「深く後悔していることがある」などの思いに悩まされるのが普通ではないでしょうか。

精神科医ではこのような「グリーフケア」を、Psychotherapy またはカウンセリングのかたちでやるのだそうです。

グリーフケアで大切な要素は:

1)Active Listening (積極的傾聴)
    Active Listening について丁寧に解説されているブログがありました。
    詳しくはこちらhttp://digitalword.seesaa.net/article/16372008.html

2)患者さんの人生について一緒に振り返ってあげること

3)人生の終わりに立って、Closure (一定の区切りがつくこと)を認めさせてあげること。

4)患者さんが生きてきて、この世に存在したことで、達成されたことや社会に貢献したことを認めてあげること

などを挙げて下さいました。

そしてカウンセリングの根本となるのは「患者さんがどのような人生をおくり、どのような人物であったか」を振り返り、讃えてあげる事が重要だと教わりました。


患者さんが平和な死(Peaceful death)を迎えられるために、医療従事者にはまだまだやらなくてはいけないことがあるな、と考えずにはいられませんでした。そして患者さんとの「対話」が、いかに重要であるかと気づかされた講義でもありました。

Monday, January 10, 2011

今日はdown time... そこでJPMのお話

昨夜おそくから悪寒 (chills) があり、十分な睡眠を取ったにかかわらず今朝は具合が悪いという自体。なんだか頭がぼ~っとして、体が眠ることを欲しています。これは悪い風邪の始まる前兆だ、と思ったので実習は休ませていただくことにしました。

朝Preceptorのナースプラクティショナーの方に電話をかけて状況を説明。すると「妊婦さんに染るとまずいから、家にいたほうが懸命ね。出てこなかったのは正しい判断だったよ」といわれました。

内科ロテのときも、「具合が悪いときは、無理して出てこないように。体が弱っている患者さんに、へんなもの染したらこまるから」とオリエンテーションで言われました。「君達医学生は、医療チームにとってとても貴重な存在ですが、病気なのにわざわざ出てこなくてはいけないほど重要でないよ」などとのジョークも。

というわけで、今日は一日家で寝ていました。完全に体がシャットダウン状態で、テレビも見れないし本も読めません。Twitterもできなかった。だから本当に出勤しなくて正解だったようです。


さて米国メディカルスクールと関係がないのですが、今日はこのブログのリンクリストにもはったJPMのお話。

これは米国で腫瘍内科医としてご活躍中の上野直人先生(@teamoncology)を先頭に、Strayさん(@K9FCR)、あいすさん(@aisu_dog)と2009年の7月から初めたちょっぴり異色の同人誌です。また第二号からはイラストレーターとして黒宇さん(@crow_u)さんが加わり、さらにパワーアップしました。

人は若くて健康な時は「命にかかわる病気になる」なんて考えないのが普通だと思うのです。それでいざ重い病気にかかると、いろいろな情報に翻弄されることも。それから急に「かしこい患者」になれないのが普通でしょう。

特にTwitterをはじめてから「超ミラクル水」のような、どう考えても詐欺のような治療法が存在することを知り、大きなショックを受けました。そこで健康的な「懐疑的態度」を養おう、というのがこの同人誌の意図のひとつでもあります。

それで日本で大人気のテクノポップグループ、Perfumeを通して一般の人に「医療」や「患者学」「EBM」について楽しみながら考えていただこう、という試みです。

それから一般の方にとっては「お医者さん」というと、一目おいてしまって近寄りがたい存在とかになりがちなのでは。医師と患者さんはお互いに良きパートナーであるべき、と私は強く思います。それで医療と全く関係のない方と、医療関係者をつなぎたいという願いもこめられています。

ということで、半分おちゃらけ、半分真面目なちょっと変わった同人誌。
Perfumeファンのかたも、そうでないかたも。
ご興味がある方は、こちらをどうぞ。

ちなみに非営利ですので、完全無料です!

http://web.me.com/uenonaoto/Journal_of_Perfume_Medicine/JPM_Magazine/JPM_Magazine.html

Sunday, January 9, 2011

ドクターG?

週末はクリニックがお休み。のんびり過ごしています。

さて、アメリカでは衛星放送などでTVジャパンというチャンネルがあり、NHKをはじめ日本のテレビが有料でみれます。

今日は「 総合診断医ドクターG」という番組を偶然やっていたので見てしまいました。
Website http://homeroom-doc.com/g/g-index.html

私の通うメディカルスクールではこのような鑑別診断の練習を、二年生のときからスモールグループの形でやっています。 「総合診断医ドクターG」という番組では、症状や身体検査所見からずばり鑑別診断を出していく形式ですが、メディカルスクールのディスカッションは症状、身体所見に基づいた鑑別診断をはじめ、オーダーすべき検査なども考える練習をします。そして検査結果などを踏まえながら、鑑別診断をし、治療方針などのディスカッションまでもっていきます。「与えられた臨床情報をもとに、次に何をすべきか」という考えかたを養っていくわけです。

さて、日本でも「総合医」や「プライマリケア医」などの言葉を耳にするようになりました。
でも「家庭医学」や「かかりつけ医」などと意味が混同されることもあるようです。


今日は少し、この辺の分類について書いてみたいと思います。



まずはアメリカでお医者さんにかかる場合、日本と少し事情が違います。

日本では病気になったら、直接専門医のところにいくのが普通です。
湿疹が出れば皮膚科、骨折を疑えば整形外科、女性特有の病気を疑うなら婦人科などにいきますね。

アメリカでは、このように患者さんが直接専門医のところに行くことはまずありません。
病気になった場合、まずは事前に選んである’「プライマリケア医」のところにいきます。

アメリカでは大きく分けて「プライマリケア医(Primary Care Physician)」と「専門医 (Specialist)」がいると思ってください。

「プライマリケア医」はいわゆるジェネラリストであり、あらゆる病態の初期診断を行います。

病気になったり、体調が思わしくないとき、まず最初に自分の「プライマリケア医」のところに行くのが普通です(命にかかわる緊急事態の場合は、緊急医療にかかります)。プライマリケア医は入院の必要がない、基礎的な病態(風邪、糖尿病、高血圧症、定期検診、簡単な外傷など)を診断・治療します。複雑な病態で専門科の助けが必要であれば、プライマリケア医が「紹介状」を書きます。これがあって始めて、患者は専門医に診てもらうことができます。米国ではプライマリケア医はよく「ゲートキーパー」という言われ方をすることもあります。

日本とおなじく「専門医」は「皮膚科」「リュウマチ科」「外科」「泌尿器科」などの、臓器別や病気別、治療手段別で専門化している医師のこと。上記のようにプライマリケア医の紹介をうけて、詳しく病気の診断や治療を行います。

それでは「内科」は「プライマリケア」でしょうか「専門医」でしょうか?

アメリカで「内科(Internal medicine)」といえば通常は「一般内科」であり、様々な病態を診断・治療する「プライマリケア医」をさします。
そして内科は「大人」の患者さんのみを扱います。

「循環内科」「腫瘍内科」「消化内科」といった「専門医」になるには、一般内科の研修(通常3年間)を終えたのち、フェローシップのかたちでさらに1年から3年の研修プログラムを終了しなくてはなりません。そして「専門医」になる前に内科医はみな「一般内科」をみっちりやらされます。すなわち「専門医」でも、プライマリケア医として対処するためのトレーニングを受けるわけです。

またメディカルスクール教育も、よき「プライマリケア」ができる医師を育てるということにフォーカスが置かれています。よき「専門医」になるには「プライマリケア」がきちんとできないといけないという考え方です。

子供の疾病は、米国でも「小児科医」にかかります。小児科も大きくわけて「プライマリケア医」と「専門医」がいます。子供が病気になると、やはりまずは小児科の「プライマリケア医」のところにいきます。そしてさらに専門家にかかる必要があれば、「紹介状」を書いてもらうわけです。


それでは「家庭医」っていったい何でしょうか?米国でいう"family medicine"は通常「プライマリケア医」であり、診る患者さんは新生児から大人、老人まで全ての年齢です。妊婦さんや精神科の患者さんもみます。家庭医は「広く、浅く」とよく言われますが、様々な症例を扱うのでとても重要視されています。また多くの場合、家族全員を患者さんとして診ることになるので、身体的な病気だけでなく精神的な面にも気を配ることができます。家庭医は、最も「包括的」な医療を提供する医師と言えるでしょう。

Friday, January 7, 2011

MFM クリニック

今日から2週間のMFM(Maternal Fetal Medicine) クリニックでの実習が始まりました。
MFMとは「ハイリスク」の妊婦を扱う、産婦人科のSub-specialty です。

高年齢出産、糖尿病や高血圧症等の疾病をもつ患者さん、遺伝子検査結果が異常とでた妊娠のケース、双子や三つ子などなど。。。

ここにはハイリスク妊娠を見る医師が9人働いていますが、曜日によって来られる先生が異なります。そこで私の実習のPreceptorをしてくださるのは、毎日ここで勤務するナース・プラクティショナーの方。

ナース・プラクティショナーになるには看護学校を卒業したのち、大学院のマスターの資格をとります。患者さんの診察から病気の診断、薬の処方までこなします。制限はあれ、基本的に医師がやる内容と同じ仕事をするわけです。かなりパワフルです。

MDやDOの医師と根本的に異なるのは、完全に独立して医療提供ができないこと。
言い換えると、かならず医師のSupervisionのもとに医療行為を行います。ナース・プラクティショナーの書いたカルテは全て医師が目を通し、Co-signしなくてはなりません。

さて、今日は糖尿病のある妊婦さんをたくさん見ました。
それからIUDの挿入がひとつ。
SLEの妊婦さん、DVT歴のある方などなど。。。

今日は一日「見学」で終わりました。

それにしても、USで動き回る赤ちゃんはかわゆ~。

Thursday, January 6, 2011

産婦人科シミュレーションラボ

今日の朝はまず海軍病院へ。IDを発行してもらうためです。

そして午後はキャンパス内の総合病院の産婦人科シミュレーションラボの実習に参加しました。

30分ほどの講義の後、学生は4つのグループにわけられ、事前に用意された4つのステーションへ。

まずは基礎的なSurgical knotのワークショップ。
豚の足をつかって、練習しました。

手の位置とか、慣れるのに苦労しました。
両手でやるのはどうにかマスターしましたが、片手でやるのはできなかった。。。

やはりもっと練習が必要です。

臨床実習では実際の患者さんに縫合をする機会もあるため、きちんと覚えるように言われました。



 次は腹腔鏡手術の練習。画面をみながら、特殊な機器をつかって組織の切除といった操作を行います。

これはビデオゲームをしてる感覚で楽しかったです。
ビーズをつかんでモールに通したり、はさみで丸の形をきったり、丸型の穴に糸を通して結んだり。

産婦人科や外科のレジデントは、このシミュレーションで様々な練習をさせられるそうです。


 次は出産後の出血のお話。出血のメカニズムと、様々な治療法・対処法について学びました。


最後はマネキンを使った、Vaginal deliveryのワークショップ。
レジデントの先生が指導してくれました。

今回は正常な出産と、肩がつっかえて出にくい場合のShoulder dystosiaの対処法を練習しました。

私も無事、かわいいプラスチック製の赤ちゃんを無事に取り上げました。

めでたし、めでたし。
 
            

Wednesday, January 5, 2011

米国産科病棟の「赤ちゃん泥棒対策」と、手術室で使われるHand signal

産科病棟のオリエンテーションのため、朝7時に病棟へ。

米国の産科病棟は、どこもセキュリティーがタイトです。
"child abduction"(誘拐)を防ぐため、様々な工夫がなされています。
産科病棟内には、適切なIDがないと入れません。入り口も全て完全ロックされています。

また、生まれた赤ちゃんにはチップが添えられていて、赤ちゃんを病棟のフロアから無断で連れ出そうとするとエレベーターのドアが閉まらないようになっているそうです。

もし赤ちゃんの誘拐が起こった場合、病院中放送で「コード・レインボー」が出されます。
そのときは医学生もふくめ、全てのクルーが怪しい人物がいないか確認し、近くにあるドアから誰も出ないように構えなくてはなりません。

さて、オリエンテーション初めの30分は、産科病棟のナース2人が病棟の話をしてくれました。

ナースは朝6時半に回診を開始するため、医学生は患者さんを診る場合はその時間までに終わらせるように薦められました。それから「カスタマーズ・サービスの向上」のため、医学生にも協力してほしいと要請。妊婦さんをはじめ、家族の人みんなに気を配ってくださいとのこと。いつも耳にする「患者中心 (Patient-centered)の医療」に加え、今日は「家族中心 (family-centered) の医療」という言葉もナースの口から出ていました。

その後はインターンの案内で産科病棟のツアーに。
Triage室、分娩室、シュミレーションラボ、手術室、医師の共同オフィス(コンピューターなどが置いてあります)、Resident用ラウンジなどを見せてくれました。

また、産婦人科では手術が行われるので「手洗い方法(How to scrub in)」
のデモもありました。

産科病棟ツアーのあとは、Conference室でビデオを3つ見せられました。

まずは基本的な手術の手順と、よく使われる手術器材の紹介のビデオ。このビデオがまた退屈で、つらかったです(笑)。でも手術中に使われる「Hand signal」は少し興味を覚えました。
これは執刀医がsurgical assistant から器材をもらうとき、いちいち口で何が欲しいのか言わずに基本的なものは手の形と位置で示すというもの。

たとえば覚えやすいのはこれ。

ジャンケンしてるのではありません。まさにそのまんまで「ハサミちょうだい」です。

それからこちらは?



「メスおくれ」です。手がメスでカットするような形になっているのが良く分かりますね。

Original images :  http://library.sccsc.edu/surgtech/rogers/twelve.htm

のこりの2本は帝王切開と内視鏡による子宮摘出術のビデオでした。

午後はレクチャーが二つ。なぜかConference室のプロジェクターが壊れていて、パワーポイントが使えないという事態が発生。それでクイズ形式で、先生方が産婦人科のトピックの話をしてくれました。

Tuesday, January 4, 2011

「患者さん中心」の婦人科診察

産婦人科ロテ2日目は、プロフェッショナル・スキル・センターへ。

私のメディカルスクールでは、模擬患者(standardized patient :以下略してSP) を起用したトレーニングプログラムが充実しています。模擬患者さんは、様々な病態の臨床的症状を再現するように特別にトレーニングされている「役者」であり「インストラクター」です。症状を真似るだけでなく、正しい問診や触診の仕方を指導して下さいます。

また泌尿器や生殖器の触診を指導してくださる指導員(teaching associate : 以下略してTA) も待機しています。婦人科では内診、直腸検査、乳腺検査など一連の検査のやり方を手取り足取りで指導してくれます。

この泌尿器や生殖器のTAさんは、ひっぱりダコで、他の学校や医療施設、学会のワークショップに頼まれて全米を駆け回るとか。

さて、今日のプロフェッショナル・スキル・センターでの研修は3つのパートから構成されていました。

まずは内診の手順のビデオを7人の学生でみました。これは世界中で使われているBatesの"Guide to Physical Examination"のビデオです。内診の手順から、診察中に注意すべき患者さんへのエチケットなどを学びました。

続いて、学生2人づつのペアに分けられ診察室へ。
婦人科のTAさんがPelvic examと乳腺の触診の指導を丁寧にしてくれます。
内容は外陰の視察・触診、speculumを用いた子宮口の視察、内診と直腸によるpelvic exam。そして乳腺の視察と触診です。

婦人科の一連の診察はM1のときにTAさんにより指導が行われていますし、M1~M3を通して実際のクリニックなどで指導医についてやらせてもらえるので、ほとんどが復習内容です。

さて婦人科の診察は、患者さんにとっても「恥ずかしい」かったり「嫌な」体験になりがちです。
プライベートな部位を診察されるのですから、当然ですね。
そこで今回は患者さんの気持ちに十分に配慮する、「患者さん中心」を意識した婦人科検診のトレーニングが行われました。

日本の産婦人科の診察室は、大きなカーテンがはってあって内診などの際に患者さんと医師が顔をあわすことがありませんね。アメリカではもっと診察室の雰囲気はオープンです。患者と医師を区切るカーテンなどはなく、このイラストのようなかんじ。


「患者さん中心」の婦人科検診では、極力患者さんの緊張を和らげるように努力がなされます。
たとえばこれから行う手順の内容と目的を、絶えず患者さんに話ながら診察を薦めます。患者さんんが嫌な顔をみせたら、検査の必要性と重要性について伝えます。そして必ず患者さんに同意を得てから診察を行います。患者さんが「いやです」と拒否すれば、診察を進めることはできません。また、医師がしていることを患者さんにも見えるよう、患者さんに手鏡を薦めることもします。

また、使用する単語にも気をつけなければなりません。
患者さんが横たわる診察ベットは"Bed" と言わず"examination table" と呼びます。「ベット」は性行為を示唆する言葉だからです。同様な理由により"stirup"ではなく"foot rest"、診察用に患者さんが身に着けている診察着は"dress" でなく"gown"です。

それから患者さんに触れる際に、"touch"や"feel" という動詞も避けます。"check"や"examine"という言葉で置き換えることで、性的な意味合いを避けることができます。

診察中の所見も、患者さんに口頭で伝えていきます。
その際 "beautiful"や"wonderful"とロマンチックな(?)表現は避け、代わりに"normal" や"healthy"といったprofessionalかつneutralな言葉を使うよう心がけます。


それから直腸に指を挿入するので、その直後に手袋を取る手順も患者さんがいやな思いをしないように指導されます。患者さんの見えない位置で、挿入した指が下に向くようにし、反対の手で上からかぶすように手袋を取ります。それから手袋にlubricantを塗るときも、低い位置で患者さんの目になるべく触れないように、気を配ります。

婦人科や泌尿器のTAさんは、みなさんサッパリした態度でフレンドリーに教えて下さる人ばかり。
おかげで学生も変に緊張しないで手順を学ぶことができます。


スキル・センター研修の最後はSPさんとの問診練習。

主訴は「白くてチーズ状の分泌液がでる」というもの。
一連の問診を行っていきますが、ハイライトは主訴の明細、最近かかった病気、服用している薬、アレルギー、生理や性生活に関する質問、性病のリスク、PAPなどの定期検査についてなどです。

問診を進めながら、頭のなかで鑑別診断をたてて次に何をすべきか考えていきます。そして問診の後、鑑別診断を「患者さんがわかる言葉」で述べ、どのような検査を行うか伝えます。

今回は様々な検査がすでに行われ、結果が出ているという、ちょっと不自然な設定になっていました。SPさんが、その検査結果を手渡してくれます。それを見てもう一度、鑑別診断について述べ、治療方針について患者さんに伝えます。

最後はかならず「患者さんに質問がないか」確認しなくてはいけません。また、患者さんがきちんと診断や治療内容を理解できているかどうか、「あなたの言葉で、私の言ったことを要約してくれますか」と患者さんの理解度を確認します。

この一連の作業を20分でやります。その後、SPさんとコンピューターで一緒にチェックリストを見ていきます。正しい診断につながる情報が引き出されていたか、患者さん中心のコミュニケーションができていたか、などがチェックされます。

今回の患者さんは過去6ヶ月のうち4人のSexual partnersがいるという設定でした。それでコンドームをたまにしか使わない。私は「性病に感染する可能性がある」ということは言及したものの、"patient education" が足りなかったと示唆されました。必ずコンドームを使用すること、を患者さんにはっきりと伝えなかったので減点されました。

今回のスキル・センターでの研修は、婦人科診察・問診のよい復習となりました。

Monday, January 3, 2011

産婦人科ロテーション、第一日目

今日から8週間の産婦人科ロテーションが始まりました。

今週一週間はオリエンテーションと講義。ゆるい始まり。
今日は自分も含め、19人の学生が産婦人科ロテーションを開始しました。

産婦人科クラークシップのディレクターの先生がまず学生に配ったのはこれ。
白衣につけて実習に出てくるのが必修です(笑)
もしつけてこなければ、25セントの罰金が貸されるとのこと。
学生みんながすぐに白衣につけていました。

各実習の初日には、「シラブス」というものがくばられます。バインダー綴りで、実習ガイドライン、予定表やアサインメント、成績の基準などが事細かに書かれているものです。どのようなロケ地で実習を行うのかも、このシラブスに記載されており、学生が始めて自分の実習の予定をしることになるので、ちょぴりドキドキ(?)です。

19人いる学生が、それぞれ様々なロテ地で実習をしていきます。私は、地元の産婦人科クリニック(2週間)、総合病院の婦人科病棟(1週間)、特殊な妊娠ケースのクリニック(1週間)、産科のNight float(1週間)、婦人科腫瘍科(1週間)のアサインメントをいただきました。それぞれの学生のロテ地とスケジュールは、こんな感じの表になっています。
1時間半ほどのオリエンテーションが終了すると、その後はビデオをみせられました。
基本的な妊娠、出産に関するビデオです(20分ぐらいのものを2本)

次に産婦人科のDrによるレクチャー。
HPIやSOAPの書き方のお話。内科や家庭医療と、少しフォーカスが違うところもあります。たとえば、Genital examやmenstrual history, sexual history を重視されるのは当然ですね。
産婦人科の特有の表記の仕方なども、ここで触れられました(G, P 等)

産科と婦人科の二つの科で、Complete H&Pを実際の患者さんに行い、症例を報告するアサインメントがあるので、学生も注意深く聞いています。

お昼をはさんで、午後は解剖学教室へ。
一年のときに解剖学を学んだ部屋で、解剖学の教授が産婦人科関連の解剖学を2時間強にわたっておさらいしてくれました。2時間ほど講義で、その後は実際の標本を触ったりして学習し、一日目が終了しました。

Sunday, January 2, 2011

謹賀新年


あけましておめでとうございます。
2011年が明けました。

TakMB、子育てしながら米国で医学生をしております。
ただいま三年生。臨床実習の真っ最中です。

いままでTwitterのほうでつぶやいたりしていましたが、みなさんアメリカのメディカルスクール事情について興味を持ってくださる方がいることに気づきました。臨床実習の様子も、日本とは少し異なるようです。

米国では医学生から「医療チーム」の一員として扱われ、患者さんの問診・診察・鑑定診断からカルテ書きなどの業務を与えられます。毎日が真剣勝負。座学からポーンと臨床の場にほうりこまれ、なれない下駄を履いて小石がゴロゴロと転がる山道を、ぶざまに歩かされているような感もあります。でも米国ではとにかく「放り込まないと」何もできるようにならない、という考えが強いと思います。そして一度医学部を卒業してMDの称号を授かれば、患者さんにとっては立派な「医師」。「研修医ですから。。。」と言い訳するわけにもいきません。よって医学部三年から「医師として機能できる」ための教育がなされます。

このブログをはじめるきっかけですが、まずは毎日の研修で心に残ったことを書き留めておきたいという思い。それから日本のみなさんに、アメリカの医学生がどのような研修内容を体験するのか少しでもお伝えしたいと思ったからです。

日本で現在活躍中の医師の方々も、アメリカで研修医のプログラムに参加したりする機会もあるかと思います。そこではアメリカの医学部出身の医師と働くことになるわけですが、いったい彼らがどのような教育を受けてきたのか、知っておくのも何かの助けとなるかなと思います。

実習や勉強、子育てに負われてどれだけ更新できるかわかりませんが、どうぞよろしくお願いいたします。

みなさまにとって、2011年が実りの多き年でありますようにお祈りしています。