Tuesday, January 4, 2011

「患者さん中心」の婦人科診察

産婦人科ロテ2日目は、プロフェッショナル・スキル・センターへ。

私のメディカルスクールでは、模擬患者(standardized patient :以下略してSP) を起用したトレーニングプログラムが充実しています。模擬患者さんは、様々な病態の臨床的症状を再現するように特別にトレーニングされている「役者」であり「インストラクター」です。症状を真似るだけでなく、正しい問診や触診の仕方を指導して下さいます。

また泌尿器や生殖器の触診を指導してくださる指導員(teaching associate : 以下略してTA) も待機しています。婦人科では内診、直腸検査、乳腺検査など一連の検査のやり方を手取り足取りで指導してくれます。

この泌尿器や生殖器のTAさんは、ひっぱりダコで、他の学校や医療施設、学会のワークショップに頼まれて全米を駆け回るとか。

さて、今日のプロフェッショナル・スキル・センターでの研修は3つのパートから構成されていました。

まずは内診の手順のビデオを7人の学生でみました。これは世界中で使われているBatesの"Guide to Physical Examination"のビデオです。内診の手順から、診察中に注意すべき患者さんへのエチケットなどを学びました。

続いて、学生2人づつのペアに分けられ診察室へ。
婦人科のTAさんがPelvic examと乳腺の触診の指導を丁寧にしてくれます。
内容は外陰の視察・触診、speculumを用いた子宮口の視察、内診と直腸によるpelvic exam。そして乳腺の視察と触診です。

婦人科の一連の診察はM1のときにTAさんにより指導が行われていますし、M1~M3を通して実際のクリニックなどで指導医についてやらせてもらえるので、ほとんどが復習内容です。

さて婦人科の診察は、患者さんにとっても「恥ずかしい」かったり「嫌な」体験になりがちです。
プライベートな部位を診察されるのですから、当然ですね。
そこで今回は患者さんの気持ちに十分に配慮する、「患者さん中心」を意識した婦人科検診のトレーニングが行われました。

日本の産婦人科の診察室は、大きなカーテンがはってあって内診などの際に患者さんと医師が顔をあわすことがありませんね。アメリカではもっと診察室の雰囲気はオープンです。患者と医師を区切るカーテンなどはなく、このイラストのようなかんじ。


「患者さん中心」の婦人科検診では、極力患者さんの緊張を和らげるように努力がなされます。
たとえばこれから行う手順の内容と目的を、絶えず患者さんに話ながら診察を薦めます。患者さんんが嫌な顔をみせたら、検査の必要性と重要性について伝えます。そして必ず患者さんに同意を得てから診察を行います。患者さんが「いやです」と拒否すれば、診察を進めることはできません。また、医師がしていることを患者さんにも見えるよう、患者さんに手鏡を薦めることもします。

また、使用する単語にも気をつけなければなりません。
患者さんが横たわる診察ベットは"Bed" と言わず"examination table" と呼びます。「ベット」は性行為を示唆する言葉だからです。同様な理由により"stirup"ではなく"foot rest"、診察用に患者さんが身に着けている診察着は"dress" でなく"gown"です。

それから患者さんに触れる際に、"touch"や"feel" という動詞も避けます。"check"や"examine"という言葉で置き換えることで、性的な意味合いを避けることができます。

診察中の所見も、患者さんに口頭で伝えていきます。
その際 "beautiful"や"wonderful"とロマンチックな(?)表現は避け、代わりに"normal" や"healthy"といったprofessionalかつneutralな言葉を使うよう心がけます。


それから直腸に指を挿入するので、その直後に手袋を取る手順も患者さんがいやな思いをしないように指導されます。患者さんの見えない位置で、挿入した指が下に向くようにし、反対の手で上からかぶすように手袋を取ります。それから手袋にlubricantを塗るときも、低い位置で患者さんの目になるべく触れないように、気を配ります。

婦人科や泌尿器のTAさんは、みなさんサッパリした態度でフレンドリーに教えて下さる人ばかり。
おかげで学生も変に緊張しないで手順を学ぶことができます。


スキル・センター研修の最後はSPさんとの問診練習。

主訴は「白くてチーズ状の分泌液がでる」というもの。
一連の問診を行っていきますが、ハイライトは主訴の明細、最近かかった病気、服用している薬、アレルギー、生理や性生活に関する質問、性病のリスク、PAPなどの定期検査についてなどです。

問診を進めながら、頭のなかで鑑別診断をたてて次に何をすべきか考えていきます。そして問診の後、鑑別診断を「患者さんがわかる言葉」で述べ、どのような検査を行うか伝えます。

今回は様々な検査がすでに行われ、結果が出ているという、ちょっと不自然な設定になっていました。SPさんが、その検査結果を手渡してくれます。それを見てもう一度、鑑別診断について述べ、治療方針について患者さんに伝えます。

最後はかならず「患者さんに質問がないか」確認しなくてはいけません。また、患者さんがきちんと診断や治療内容を理解できているかどうか、「あなたの言葉で、私の言ったことを要約してくれますか」と患者さんの理解度を確認します。

この一連の作業を20分でやります。その後、SPさんとコンピューターで一緒にチェックリストを見ていきます。正しい診断につながる情報が引き出されていたか、患者さん中心のコミュニケーションができていたか、などがチェックされます。

今回の患者さんは過去6ヶ月のうち4人のSexual partnersがいるという設定でした。それでコンドームをたまにしか使わない。私は「性病に感染する可能性がある」ということは言及したものの、"patient education" が足りなかったと示唆されました。必ずコンドームを使用すること、を患者さんにはっきりと伝えなかったので減点されました。

今回のスキル・センターでの研修は、婦人科診察・問診のよい復習となりました。

2 comments:

  1. アメリカのほうが日本より遥かに患者に気を遣うんですね。びっくりしました。見習うべき点が多いですね。

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  2. 患者さんを本当に大切にするよう指導されます。また身体の世話だけでなく、精神的な面にも敏感に気を配るようにとの教育をうけます。

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