Saturday, January 29, 2011

産科病棟での一日

L&D(Labor & Delivery) "産科病棟"の一週間が始まりました。

医学生は毎朝、5時に出勤。
出産を終えた妊婦さんの体調をチェックし、状況と今後のプランを電子カルテに記入します。
忙しいと20人ぐらいの産後の妊婦さんが病棟にいますが、医学生一人につき4~5人ぐらいの妊婦さんを担当するのが平均的なようです。8時ごろに回診が始まるので、それまでに妊婦さんを診てカルテを書き終えなくてはなりません。

Nurse Stationにて。手前に座ってカルテ書いているのが医学生のT君

でも産科は内科に比べて、問診する事項もきまっているし、カルテも簡素にできる感じです。
みんな7時前には余裕で仕事を終えるようです。

さて、電子カルテに書いた事項は指導医またはレジデントに "Co-sign"といってチェックをされないと正式なカルテとみなされません。ふつうは学生が書いたカルテの下に、指導医が足りないところを付け足したり、間違いを訂正したりします。そして基本的に「上のカルテ内容に同意する」といったことを書いてくれます。

さて、8時からは回診が始まります。
産科病棟にいる全ての患者さんについての報告会です。
患者さんの状況と今後のプランを口頭で話していくのですが、指導員のインプットがここで入ります。また指導員が症例に即した質問事項をしたり、知識を「教授」してくれるのもこの回診のです。レジデントに混じって医学生も、自分が朝診てカルテを書いた患者さんの報告を口頭で行います。

回診が終わると、お産に立ち会う機会があります。
まずは病棟にいる妊婦さんのリストで、出産が近い人を医学生同士で「分け合って」担当をきめます。そして担当になった妊婦さんの部屋にいき、挨拶をします。
基本的に担当でない妊婦さんの部屋には、プライバシーを尊重して全く入らないようにと言われます。

帝王切開では医師と一緒にオペ室に入ります。
普通アテンディングとレジデントの2人がかかわりますが、実際の帝王切開をするのはレジデントです。アテンディングはSupervisorとして指導を行います。
医学生はアテンディングのすぐ横に立たされます。
手術の様子はこれでばっちり見れます。それからクランプを渡され、術野が見えるように皮膚と脂肪をクランプで抑えておくのが私らの仕事です。それから縫合の際には、ハサミを渡され、支持にしたがって糸をきったりします。

経膣分娩はふつうレジデントの1-2年が担当します。
赤ちゃんが出る間際になると、アテンディングや小児科のチームが到着します。
医学生がどれだけ出産に加担できるかは、担当のレジデントによりきりです。
妊婦さんの足を押さえさせてくれるだけのレジデントもいれば、赤ちゃんを取り出すのをバッチリ体験させてくれるレジデントもいます。


私はラッキーなほうで、赤ちゃんの頭がでてきたときの鼻口の吸引、肩のDeliveryも体験させてもらえました。生まれたてホヤホヤの赤ちゃんを、持ち上げさせてもらうのは、本当に光栄な体験でした。あとはへその緒からの採血、胎盤のDeliveryもやらせてもらいました。

産科病棟は、しばらく暇だったり、急に忙しくなったりと予測ができません。
出産がない場合は、トリアージといって入院させるかどうか患者さんを診て評価するのも医学生の仕事です。トリアージでは基本的に詳しい問診を行い、触診までします。またマネジメントプランを考えます。その後レジデントのところに行って、症例報告を口頭で行います。その後はH&Pといわれる詳しいカルテを記入するまで医学生の仕事です。

トリアージに診る患者さんがいない場合は、朝にみた患者さんのチェックや、マグネシウムを投与されている患者さんのチェックを毎2-4時間に行い、カルテ記入をします。それでも仕事がない場合は基本的に病棟でスタンバイなので、クラスメートとくっちゃべったり、自習をしたりして時間をつぶします。
            産科病棟の廊下。突き当たりが手術室です。

7 comments:

  1. 医学生がそこまでやらせてもらえるのって、すごいんじゃないかと思うんですが、日本でも教育病院だとそれぐらいやらせてくれるんでしょうかね?

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  2. とにかく1~2週間のうちに、なるべく実践的な体験ができるようにという感じです。朝担当の患者さんも、当たり前のようにいきなり一日目から与えられますし、右も左も分からないような状態でも容赦ありません(汗)。でもどんな状況に放り込まれても対処できるような臨床的なカンが、そういったところから育てられるのかなと思ったりします。

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  3. 日本の初期研修医と同じレベルの仕事を、学生でやっている、という印象です。私の研修病院は恐らく恵まれているほうで、妊婦検診や分娩、分娩後の裂傷縫合などもやらせてもらえましたし、救急外来で妊婦さんを診察するのも基本的には初期研修医の仕事でした。なので、トリアージなども必要に迫られて覚えた、というところはあります。
    ただ、研修病院によっては、そこまでやらせてもらえないところも多いと思いますし、更に去年から産婦人科は選択科目になってしまったので、洗濯しない人も多いでしょう。
    そういう意味では、アメリカの方が研修環境は優れているように思います。
    恐らく、日本の方がいい面もあるのだと思いますが、いいと思えるものは素直に見習って、日本にも取り入れて行くべきですね。

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  4. コメントをどうもありがとうございます。たしかにアメリカでは研修医一年目から医学生の指導しなくてはいけないので、医学生が初期研修医レベルというのはあるのかもしれません。先生がおっしゃる「日本のほうがいい面」というのは具体的にはどのようなところでしょう。とても興味があります。ぜひおしえてくださいませ。

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  5. 「アメリカから輸入された教育方法」が日本でも一番の隆盛ではないでしょうか(笑)。
    ただ、日本にずっといるので、逆に日本のいい面が見えなくなっている、というのはあるかもしれません。

    学生時代は私もあまり勉強していなかったので、初期~後期研修として、ちょっと思いついたこととしては、

    1:カリキュラムの自由度が高い研修施設が多い
    これは、裏を返せば「放任」なのですが、目的意識とビジョンがしっかりしている医師にとっては、自分で自分のキャリアを作っていけるという面白さもあり、かなりストレスの少ないプログラムです。
    ただ、逆に「指示待ち」研修医にとっては、悪名高い「日本の医局制度」の中で、教授の指示通りに地方の病院を転々とする中で鍛えてもらった方がいいのかもしれません。
    話が逸れますが、日本の医局制度は色々批判を受けているものの、「過疎地域への医師派遣」機能と「能力の低い医師でも責任を持ってひとかどの医師に育てる」機能を果たしていたと思います。

    2:日本古来の「献身」の精神
    これも、上記と同様、いい面ばかりとは言えませんが、
    朝早く出勤し、夜遅くまで勉強や勤務、数日間家に帰らないことも当たり前・・・という生活を、レジデントのみならず指導医クラスまで実践している国は日本くらいかもしれません。
    ひと昔前の外科医だと、家族を持つと医業の足かせになる、と独身を貫くドクターもいたほどです。
    それが正しい、とは決して思いませんが、身を粉にして患者さんのために献身する日本の指導医の姿は、一部見習わなければならない精神性かとは思います。

    あまり、「これは!」という回答ができず申し訳ないのですが、facebookの方でも聞いてみて、またコメントします。

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  6. facebookの方からは
    ・研修プログラムの選択のための競争がない(少ない)
    ・(国公立は)学費がやすく自分で学費を借金しなくてもいい
    といった意見が出ました。
    twitterからは何か有益な情報は得られましたか?もしあればこちらでも教えて下さい。

    あと、学生時代にあまり勉強しなくても卒業できる=学生時代に勉強に縛られず、やりたいことをやれる、
    という意見もあり、
    つまり、部活動に打ち込んだり、長期旅行に出かけてみたり、国際活動に携わってみたり・・・と、自由に時間を使える時期は大学時代しかないのだから、そこで十分したいことをしたらいい(もちろん学生の時から医局に所属して勉強をしている人もいる)、ただ、資格取ってからは死にものぐるいでやれ、というのも見方を変えればいい面もある、日本の文化ですね。

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  7. いろいろ興味深いご意見と現場の様子を教えてくださって、どうもありがとうございます。

    Twitterのほうでも、大学時代に自由にやりたいことができる、というのを良い点に挙げている方がいらっしゃいました。また基礎研究をやらせてもらえる、というのもありました。

    確かに高校卒業してすぐ医学部に入るの方が大多数だから、青春真っ只中で遊びもしたいし、恋愛もしたいでしょう。それは人生の中で大切な事だし、やりたいだけできるなら個人の幸せにつながると思います。ただ日本の医学部は6年間ありますから、少し凝縮して医学の勉強をひたすらやる学年があってもいいのかもしれませんね。やはり医学部は、文学部や理工学部などの非医療関係の学部と目的も違うし、教育の姿勢も異なって自然ではと思います。

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